ポケモンタワーとロケット団、シルフスコープについての考察 

 いつもはゴーストタイプポケモン一匹一匹に焦点を当てているが、今回は趣向を変えて『ポケットモンスター』原作における、ゴーストポケモンが関連するイベントにスポットを当てて考えていく。今回はポケモンタワーについて。 

 

ポケモンのお墓がたくさん集まっている塔。毎日多くの人たちが供養のために訪れている。

(タウンマップより)

 

 ポケモンタワーはカントー地方シオンタウンにある、ポケモンたちの墓地(二世代、四世代ではラジオ塔)である。似たような施設にシンオウ地方のロストタワー、イッシュ地方タワーオブヘブンなどが挙げられる。

 ここでのイベントの詳細は省かせていただくが、今回見ていくのはここに出現するポケモンが「ゆうれい」と表記される現象、そしてそれを見破るために使用する道具「シルフスコープ」とロケット団の関係についてである。

 

ポケモンタワーと「ゆうれい」

 最上階直前に現れ、強制的に戦闘になる「ゆうれい」の正体はガラガラであり、この個体は捕獲ができず、倒すことで成仏する。「THE ORIGIN」ではロケット団の危険を知らせるため「タチサレ」と発していたことが分かり、人魂のような姿で成仏した。

 この例から、特定のポケモンは死霊の状態のまま、ゴーストタイプに変化することなくある程度活動できるということがわかる。ロケット団に殺されたという怨念の強さが関係していると考えられるが、これはゴーストタイプが生まれるプロセスを考える上での一助となるだろう。

 

 なお、ガラガラ以外に出現する「ゆうれい」の正体はゴース、ゴースト、カラカラである。しかし、ゴースとゴーストはともかく、カラカラに至ってはゴーストタイプですらない。何故これらのポケモンは、ポケモンと認識すらできず正体の分からない幽霊と表示されてしまうのだろうか

 これに対する仮説として、ゴーストの項で述べた「ゴーストタイプポケモンに対する得体の知れなさや恐怖」を挙げたい。ゴーストタイプはポケモンとしての存在意義が曖昧な部分があるため、「タチサレ」と発するポケモンたちをいわゆる「幽霊」(人間霊?)と混同してしまった可能性がある。 

 

 しかし、ガラガラの幽霊が「タチサレ」と言うのはわかるが、それ以外の野生ポケモンも同じ言葉を発するのは何故なのだろうか。これに対しては、

 

 ①幽霊ガラガラの影響が塔全体に及んでいる説

 ②ゴース・ゴーストの呪いやいたずら説 

 

の二つが挙げられる。

 前者は幽霊ガラガラの強い意思や念が塔全域に広がり、各ポケモンが幽霊ガラガラの意思を反映するスピーカーのような役割を果たしていたと考えられる。後者は、ゴースやゴーストのいたずら好きな面が図鑑説明からも確認できるため、人間を怖がらせるための行動や、幽霊ガラガラの真似をしていたと考えられる。

 ゴーストタイプでないカラカラに関しては、ゴース・ゴーストの干渉(憑依?)による影響ともいえる。同じ現象がタワー内のトレーナー(祈祷師)に見られる。彼らは皆何かに取り付かれているような挙動をしているが倒せば正気に戻るので、同様にゴース達に干渉されていたと考えられる。 

 

シルフスコープとロケット団

 

人の目に見えないものを見ることができるスコープ。シルフカンパニー製。

(Let's go ピカチュウ・Let's go イーブイより)

 

 これらの「ゆうれい」を見破るために、シルフスコープという道具が使われた。しかしこの道具は「人の目に見えないものを見る」ことができるものだが、作中ではこのポケモンタワーのイベントでしか用途がない。決して幽霊を見るための道具とは書かれておらず、本来の用途であるか不明な点が気になった。これは一体何を目的に作られた道具なのだろうか。 

 

 シルフスコープの製造元はヤマブキシティシルフカンパニーであるが、この企業に触れる上で避けて通れない背景がある。それはシルフ(の社長)とロケット団の癒着である。

 カントー地方を舞台とした作品では地方中にロケット団の息がかかっていたが、トキワに潜伏したりタマムシのゲームセンターを隠れ蓑にアジトを展開していた一方、ハナダの強盗と並んで大々的なやり口だったのがシルフ本社の占拠である。 

 

 ヤマブキシティでのロケット団は、ジムリーダーのナツメがいたにも関わらず街の四方のゲートを封鎖し、各地に下っ端を配置して堂々と悪事を働いていた。シルフ本社内には下っ端に加えロケット団に加担する研究員も複数おり、シルフから寝返った者がいたことが分かる。

 最上階ではサカキと社長が「大人の話し合い」をしており、サカキを倒すことで社長からマスターボールをもらえる。ここから、ロケット団もといサカキはマスターボールを狙ってシルフを占拠したと推測できる。 

 

 しかし、ロケット団とシルフのつながりはこれだけではない。作中で実際にシルフスコープを手に入れる場所はタマムシにあるロケット団アジトの最奥部、サカキがいた場所だった。また、シルフスコープを使うことになるポケモンタワーにもロケット団がいた。更にいえば、シルフが製造したと言われる人工のポケモン、ポリゴンが入手できるのは地下にロケット団アジトのあるタマムシゲームセンターの景品交換所である。

 

 マスターボールポケモンタワーについては、先人によってフジ老人(フジ博士)とミュウツーに結びつけた考察が既になされている。「ロケット団は最強のポケモンであるミュウツーのことを(恐らくポケモン屋敷の資料から)知り、その捕獲のためにマスターボールを、情報を知るためにフジ老人を狙った」というものである。ハナダで強奪した技マシン「穴を掘る」も、ハナダの洞窟へ潜入するためのものとされている。

 

 このようにロケット団の悪事は概ねミュウツーに繋げることができる。例えばオツキミ山の化石事件は、人の手で復元するポケモンを調べることで同じく人工ポケモンであるミュウツーのデータを得るためと考えられる。先ほど挙げたポリゴンも同様である。

 ところで、ナナシマにもロケット団は潜伏しているが、5のしまで活動していた残党が狙っていたルビーとサファイアはよくわからない。単なる金策であろうか。ナナシマの残党にはまだ解散宣言が伝わっていなかったためこれがサカキの指示によるものだったかは不明だが、独断の行動だとすればジョウト地方で活動していたロケット団の行動と共通点が見いだせる。

 これらの宝石は1のしまのネットワークマシンの動力源であるが、通信交換による進化には特殊な電波が影響すると言われている。またジョウト地方ロケット団はチョウジタウンやラジオ塔で怪電波によるポケモンの強化・洗脳を図っていた。そのため、彼らは電波に関する活動を担った同部隊だったという可能性もありそうだ。 

 

 話が逸れた。シルフスコープに話しを戻そう。

 先行研究を踏まえた上で、もう少し考えてみる。シルフスコープは何を目的に作られたのか。以下の二つが仮説に考えられる。

 

 1.ポケモンタワーに蔓延る「ゆうれい」を突破するため。 

 作中での用途が正しいとする説である。ポケモンタワーの最上階に上がるにはロケット団も同様に「ゆうれい」に行く手を阻まれたと考えられる。

 ロケット団は狩猟の際に逃げ出したガラガラを殺害し、そこに抗議に来たフジ老人をポケモンタワーに拉致した。つまり、ロケット団が初めてポケモンタワーを訪れた時はガラガラはまだ生きており、ゴースやゴースト、カラカラが①のような幽霊ガラガラの影響を受けることはない。「②ゴース・ゴーストの呪いやいたずら説」であった場合でも、ガラガラの真似をしていたという根拠は無効になる。 

 

 そのため、もしポケモンタワーに「ゆうれい」が現れるとするならば、そこにはガラガラ(及びカラカラ)は一切関わっておらず、「タチサレ」という言葉も発せず、単純にゴースやゴーストに対して得体の知れない恐怖を抱いたという説明しかできない。

 しかし、そんなことのためだけにシルフはこの道具を作ったのか?これなら技「みやぶる」で代用できるではないか。またFRLGではナナシマにゴースが出現するが、この個体は「ゆうれい」と表示されることはない。そもそもポケモン研究の権威たるオーキドほどではないにしろ、ミュウツーに関する研究を重ねてきたロケット団が今更ゴーストタイプポケモンの正体を見抜けないことがあるだろうか… 

 このことから、やはりシルフスコープの製造目的は「ゆうれい」を見ることではないと考えられる。 

 

※なお、この一件をミュウツーと結びつけるならばロケット団の目的はあくまでフジ老人なので、カラカラ族の骨はフジ老人をおびき出すための囮、あるいは金策でしかなかったと考えられる。

 

 2.ミュウツーにはミュウのステルス機能が備わっており、それを見破るため。 

 私はこちらの説が有力だと考える。

 

すべてのポケモンの遺伝子をもつという。自由自在に姿を消すことができるので人に近づいてもまったく気づかれない。

ホウエン地方を舞台とする作品の図鑑説明より

 

 ミュウツーはミュウの遺伝子から生まれた存在であるが、ミュウの持つ様々な能力の中に「自由自在に姿を消す」というものがある。この能力をミュウツーも持っているのだとすれば、ハナダの洞窟に潜入しても遭遇することは困難だと想定される。

 そこでロケット団はシルフスコープを狙った、あるいは開発させたのではないだろうか。しかし実際にはその機能を搭載できなかったため、不要とされサカキを倒した後アジトに残されていたのではないか。なお、この場合幽霊を見破る機能が意図されたものかはわからない。

  どうだろう。ミュウツーロケット団の悪事を結びつけて考えた場合、こちらの説の方が自然ではなかろうか。

 

 以上より、

・「ゆうれい」と戦闘できない理由はカントー地方のゴーストタイプに対する得体の知れなさや恐怖によるもの

・「ゆうれい」が「タチサレ」と言う理由はガラガラの思念の影響及びゴーストタイプポケモンのいたずら

ロケット団がシルフスコープを開発させた理由はミュウツーにステルス機能を見破るためであり、幽霊を視認する機能は副産物であった

 

ということが考えられた。

 

※余談

 シルフカンパニーの競合として知られる企業にホウエン地方のデボンコーポレーションがある。どちらの企業もモンスターボールをはじめ様々な道具を製造しているが、デボンの開発した道具に「デボンスコープ」というものがある。

 これは「見えないポケモンに反応して音を出す」道具で、作中では保護色で擬態したカクレオンを見破るために使われた。両者とも見えないポケモンに対して有効な点が共通しているが、デボンスコープが幽霊に、シルフスコープがカクレオンに使えるかは分からない。一方、シルフスコープは「見る」道具であるがデボンスコープは音を出すのみで、道具によって見えるようになるわけではないという違いがある。

 増田氏の発言より各作品の時系列は厳密でないため、どちらが先に作られたかは定かでない。しかし、シルフとデボンが似た道具を作っていることが何か関連しているかもしれない…と当初は考えていたが、シルフスコープがロケット団の特注品であるならばデボンにその情報が入っている可能性は低いので、関連はないのかもしれない。 

 

長くなりましたがこの辺で。次はムウマの考察です。